ファシリテーターとはグループ(集団)の関わりと探求の「プロセス」によりそい成長と前進を支援する人
最近「ファシリテーター」という言葉が広く知られ、耳にすることも多いと思います。
「ファシリテーター」という存在について捉え方はたくさんあります。
ここでは一つの考え方と私が感じている「ファシリテーター」の必要性を記載しています。
少し長いですが、わかりにくい「ファシリテーター」という仕事についての理解につながりましたら幸いです。
- 「ファシリテーター」の意味(言葉面)
- 「ファシリテーター」は何をする人?(行動面)
- 【ベース理論】ラボラトリー方式の体験学習
- 【キー概念①】コンテントとプロセス
- 【キー概念②】体験学習の循環過程
- 「ファシリテーター」が求められる時代
- 内部ファシリテーターと外部ファシリテーター
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「ファシリテーター」の意味(言葉面)
「ファシリテーター」と聴いてどんな人をイメージするでしょうか?
「ファシリテーター(facilitator)」を日本語訳すると、
1 物事を容易にできるようにする人や物。また、世話人。
2 集会・会議などで、テーマ・議題に沿って発言内容を整理し、発言者が偏らないよう、順調に進行するように口添えする役。議長と違い、決定権を持たない。(デジタル大辞泉より)
となります。
2の意味が有名なので、ファシリテーター=会議やトークイベントの進行役を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、私はそれはごくごく狭義の「ファシリテーター」だと考えています。
かと言って、上記1の意味だけ見ても結局何を「容易にする人」なのかわかりにくいですよね。
「ファシリテーター」の定義は人それぞれですが、私は「人と人との関わりの中でその人たちが望むグループ(集団・組織)になっていくための深いかかわりと探求(学習)を容易にし、促し、支援する人」だと考えています。
まだわかりにくいですね笑
会議やトークイベント、ワークショップなど一時的なものだけでなく、組織やチームの活動、企業活動など長期的、恒久的なものも多くの人が集まるグループ(集団・組織)活動で成り立っています。
本来、そうしたグループ活動は1+1=2以上の力を発揮し、成果を得るために行われます。
でも、一人ではなく複数の人が集まるところには多様な意識レベル、価値観や考え方があり、すれ違いや、思い込み、誤解や不信頼といったことがおこり、1+1が必ずしも2にならず、かえって力を減らし合ってしまうこともよく起こります。
そうならないために、人や組織が互いを理解し、学び合い、探求することを支援し、その組織の真価を発揮することに貢献する実践家が私の考えるファシリテーターです。
「ファシリテーター」は何をする人?(行動面)
ファシリテーター以下のようなことをして、組織やグループの支援をしています。
・より開放的な話し合いをするため、心理的安全性を確保できる「場」の設計と用意(ハード面・ソフト面)
・幅広い意見や多様なコミュニケーションのやり方を会話に取り入れていく
・客観的な視点、批判的な視点による観察と適切なタイミングで介入したり、新たな切り口の提供したりする
・思考と発見を促す問いかけ
・今起こっていることや関係性を確かめる問いかけ
・創造性を誘発するメタファー(暗喩)やイメージの提供
ファシリテーターはこれらを意図的に設計し、実行することで組織やチームの支援をする人です。
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【ベース理論】ラボラトリー方式の体験学習
私は「体験学習」とは、単なる学習提供者の「教え方」ではなく、人が誰しも持っている成長のために「学び取る力」だと考えています。
人や組織はだれしも自身で体験したことから学びます。
学校の先生や他人から教えられたことよりも、自ら体験した得たものの方が鮮明に残っているという方も多いのではないでしょうか。
体験学習にはラボラトリー方式の体験学習という概念があります。
ラボラトリーとは日本語で実験室。
実験室というとなんだか怖い感じもしますが、恩師である津村俊充先生はラボラトリー方式の体験学習を「ラボラトリーとは特別に設計された人と人が関わる場を意味し、そこで起こる”今、ここ”での参加者の体験を素材として、人間や人間関係を参加者とファシリテーターとが共に探求する学習」と説明しています(津村,2010)
もっとかみ砕いて言うと、「ファシリテーターによって意図的に作られた関わりの場でお互いが関り方を確かめたり、試し、感じたことを伝え合うことで共に学び合って変化していく学習法」という感じでしょうか。
ラボラトリー方式の体験学習のキー概念として「プロセス」と「体験学習の循環過程」があります。
【キー概念①】コンテントとプロセス
グループで物事を進めるときには、「話し合われていること」「課題」といった目に見えもの以外に、関わりのなかで起こっている「気持ち」や「感情」の行きかいがあります。
前者は「コンテント」と呼ばれ、後者は「プロセス」と呼ばれます(下図)。
グループの成果を追求するために、多くの場合課題の進行を管理したり、フレームワークを使って課題整理をしたり、必要な情報を提供したりとコンテントへの働き(課題達成機能)が多くなされます。
その働きかけもとても大事なファシリテーションですが、人には感情があり、そこから思考につながり、行動に移していくので目に見えていることだけ取り扱うのではなかなか行動が起こらず、グループとしての力が発揮できないということも起こります。
グループの力が最大限に発揮できていない状況を解消し、「グループであること」を最大に生かすために、目に見える行動レベル(時にはスキルレベルの調整)だけではなく、隠れているプロセス=今、ここで起こっていることに気づき意図をもって働きかけることが大切であり、それを支援することがともにいるファシリテーターの役割です(集団の形成・維持機能)。
【キー概念②】体験学習の循環過程
人や組織が行う「学習」とはただ「教えられる」受動的なものではなく、「体験から学び取る」という能動的なものです。
体験学習は下記の図のようにモデル化(津村,1991)されています。
学習者がたどる過程は
- 具体的な体験をする(体験)
- その体験を内省したり他者の行動を観察して気づきを得る(指摘)
- 2で得た気づきを抽象的な概念を用いて考えたり、一般化したりする(分析)
- 新しい体験に導くために自分の行動目標を決めたり課題をつくる(仮説化)
と表現され、循環過程のどこにいるかによって学習に必要な支援や介入は異なります。
私は「体験学習」=体験から学び取る力は人間や組織が生まれ持っている成長のための力であり、学習者があらゆる体験から自ら学び取り、行動変容につなげることを支援することもファシリテーターの役割です。
「ファシリテーター」が求められる時代
いま、日本の企業の多くは、多様な働き方を支持し、生産性を上げる働き方改革に取り組み、職場としてのあり方を変えようとしています。
また、AIや自動化、電気自動車化に代表される技術革新による産業構造の激変にも対応していかなければなりません。
これら企業が直面している環境変化は誰も経験したことのない世界であり、唯一の「正解」が無い問題にあふれています。
今直面している「正解のない問題」に適応していくためには、トップだけ、一部の上層部だけが解決策を考え指示をするのは限界があります。
実際、経営者様に関わる場面でも、それに多くの企業が気づき変革を始めていると感じます。
急激な環境変化に対応するためには、多様性を活かし、内側からイノベーションを創出できる組織への転換がまず必要です。
その上で、更に文化の異なる外部との協力関係(M&Aや産学連携、大企業とベンチャー企業の共創関係など)で外部の力を積極的に取り入れることで企業としてこれまで行ってこなかったチャレンジが求められていると感じます。
このような流れの中、ますます個と個、個と組織、組織と組織などより複雑化する関係性の中で価値を生み出していく時代になっていきます。
そこには文化の違い、価値観の違い、これまで体験して得てきたものの違いなどたくさんの「違い」があります。
その「違い」には連携が困難になるリスクもありますが、「違い」があることはそれを力に変えていけるチャンスでもあります。
複雑な関係性の中「違いを」理解し、活かしあい、「正解なき時代」にチームや組織が自分たちの「心からありたい姿」や「自分たちの答え」を自ら創り出し、それに向かって力強く進んでいくことを支援する存在が私が考えるファシリテーターであり、我々のミッションです。
内部ファシリテーターと外部ファシリテーター
企業やさまざまな組織においては、内部のリーダーや社員がファシリテーターの役割を果たすことが多いです。
一方で既存の常識・文化を変えるような大きな変化、既存の枠組みを外した発想を要する場合、私のような外部のファシリテーターが有効に働きます。
外部のファシリテーターは、問題や課題そのものに答えをもたらすのではなく、以下のような役割を通して、グループが自らの力で答えを見出し、行動に移していくことを支援します。
外部ファシリテーターは内部のファシリテーターの役割をする人をサポートし、ともに組織やグループの変革、チームビルディングを支援していきます。